浪人浮浪雲

無銭旅_ 多摩・一ノ宮万平

安政五年九月十五日 こんどの旅は奇行といっていい。無銭旅なのだ。 ーむかしの剣客というもんは、乞食をしながら武者修行したもんじゃ。 「夜道とは驚きましたね」寝待の藤兵衛は、ひたひたとついてくる。 「土佐まで付いてくる気か」「家来ですからね」...
江戸時代の常識・風習

藤兵衛

安政三年 十一月二十日 千葉道場の竜馬の所にめずらしい客が来た。寝待の藤兵衛だ。 「何の用だ」 「用ってもんじゃねえんですが、一つは旦那の顔を見たさと、もう一つは、旦那にその気があれば頼みたい事が」 「断るよ。お前の頼みは、変な女を押し付け...
江戸時代の常識・風習

ボヤ騒ぎ_防災

嘉永七年十一月二日 夕刻、土佐藩の鍛冶橋屋敷から火が出た。道場にいた竜馬は急いで身支度をし駆けつけるとすでに火が消えている。 「幸い作事小屋のカンナ屑が燃えたところで消し止めました」 「それぁよかった」その時パラパラと雨が降って来た。 「傘...
江戸時代の常識・風習

三十本勝負_八百長

嘉永七年十月十六日 竜馬と重太郎は、道場の東西からそれぞれ竹刀を携げて中央に進み出てきた。 (この勝負、一本も竜馬に譲れぬぞ)重太郎は、下段に取った。 切っ先がセキレイの尾のように動いている。これが北辰一刀流の特徴であった。 竜馬は大上段で...
幕末の女性

コオロギの声_落籍

暑い夏が過ぎて、路地のあちこちでコオロギの声を聞くようになった頃、久しぶりに寝待ちの藤兵衛が道場にたずねてきた。 竜馬は重太郎の部屋を借りた。お冴の仇討ち以来である 「少し遠くに出かけていました」 「西国にいっていたのか」 「いいえ、出羽か...
江戸時代の常識・風習

男子三日見ざれば刮目せよ_薬食い

嘉永七年六月三日 竜馬にも平和な日常が戻って来た。土佐藩品川の臨戦態勢が解かれ、桶町の千葉道場に戻った。道場に戻った竜馬は以前の月代が伸びた山賊頭でなく、総髪が十分に伸び、髷が言えるまでになった。 「立派になった」と喜んでくれたのは大先生の...