江戸時代末期から新しい日本にかけての才能ある文化人
津田梅子
(不幸だな)と、竜馬はおもった。乙女の鬱屈が、であった。それほどの自分をかかえて、いささかもその自分を行動で表現することなく、実家の奥の一室でむなしく歳月を消費しつづけてゆかねばならないのはよほどつらいことにちがいない。 竜馬が行く8 p...
幕末の武士道 猫久
お田鶴さまがいうには、要するに竜馬がはがゆいのである。長州藩の攘夷さきがけとともに、天下はいよいよ騒然としてきた。そのなかにあって竜馬はいったい何をしているのか。「まあ、お田鶴さま、ながい眼でみてくだされ。天下の有志が、京に集まって騒いでい...
長崎丸山・花月
その夜、竜馬は、丸山であそんだ。丸山は、江戸の吉原、京の島原とならんで日本三大遊里のひとつにかぞえられたところである。思案橋のたもとに紅燈がゆれ、柳が数本、灯影にあざやかなみどりをたらしている。その橋をわたれば、すでに絃歌のちまたであった。...
維新の遺伝子を受け継いだ・吉田茂
「坂本君、きみは日本の政権に野望をもっているのか」「おや」竜馬は、後藤を見た。正直なおどろきである。後藤(象二郎)という男は度量広大な人物とみていたが、そんな推量をするあたり、やはり一官僚にすぎないかと多少失望した。「ないさ」竜馬は火鉢を引...
岡上新輔(樹庵)
安政元年十一月二十八日 「あら、竜馬」乙女は嬉々とした声をあげた。「今度の地震でかえってきたのですね」ほどなく、義兄の岡上新輔が戻ってきた。「きちょったか」「どうせしばらく江戸には戻らんのじゃろ。乙女、うんと馳走してやれ」「サーチ」「サーチ...
河田小龍
(洋学も学ばにゃ、ならん)と、竜馬はだいそれた野望をおこしたのである。「洋学。-」武市半平太も驚いた。武市は、漢学、国学に造詣がふかいが、洋夷の学問まではやっていない。竜馬は、世界のことが知りたい。万里の波濤を蹴ってこの極東の列島帝国まで黒...