1853-03

江戸落語の世界(芸能・娯楽)

三十石船 桂文枝

船が天満八軒屋から五里さかのぼって河州枚方についた時は、一番鶏の声が聞こえてきた。目が覚めた時には天がほのかに白み始めている。「どこかね、ここは」男は黙っている。旅の行商人風の男で、ひどく背が低いが顔は不釣り合いに大きい。「あんた、耳がない...
江戸時代の常識・風習

伏見_女酒

日が傾いた頃、船は伏見についた。龍馬が荷物をまとめていると、寝待の藤兵衛からしきりと世話を焼いて、「旦那、伏見のとまりはどこになさいます。」もう人前だから、お店者の言葉になっている。「そうだな。別に当ては、ないな。」「ではこうなさいまし。手...
土佐藩

高麗橋_岡田以蔵

嘉永六年三月二十四日 暗い。提灯を持たない竜馬は、橋の欄干に身をすり寄せるように歩いた。「おい」と声を殺して呼びかけたものがある。あっと竜馬は前へ飛んだ。はかまの裾が切り裂かれたのが、足の感触でわかった。龍馬は、じりじりとさがって、橋のたも...
竜馬がゆく

六本矢車_家紋

嘉永六年三月二十六日 その時、カラリと障子があいた。武士が立っていた。お登勢は気づかぬふりをして、竜馬を相手にたわいのない話をした。 「失礼をした」障子を閉め姿を消した。 (おかしな野郎だな) 「六本矢車は、人間を斬った顔だよ。眼でわかる」...
竜馬がゆく

岡崎の浦

嘉永六年三月二十一日 客引きの女中に袖を引かれるまま、竜馬は鳴門屋という船宿の軒をくぐった。 「酒をくれ、俺はこの部屋だ」決めてしまっている。 「おこお部屋は、もうすぐ着くお客様のお部屋でございます。お願いしてみますので、こちらで相席はいか...
竜馬がゆく

鳴門海峡

嘉永六年三月二十二日 -船が出たのは、翌る未明である。 お田鶴さまは、胴の間の一角を定紋入りの幕でかこんだ籍に入った。 「竜馬どのも、ここにいらせられますように」 とお田鶴さまは声をかけてくれたが、竜馬は 「いや」といったきり、船の上に出て...