岡崎の浦

竜馬がゆく

嘉永六年三月二十一日

客引きの女中に袖を引かれるまま、竜馬は鳴門屋という船宿の軒をくぐった。

「酒をくれ、俺はこの部屋だ」決めてしまっている。

「おこお部屋は、もうすぐ着くお客様のお部屋でございます。お願いしてみますので、こちらで相席はいかがでしょう。」
「うむ、よい」
「お客様は、お女中方でございますよ。土佐の御家老福岡宮内様のお嬢様でございまする」
「それはいかん。おれは、今夜、浜辺で寝る」

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「お嬢様…ここに、お人が伏せておりまする。このお人が、本町筋の坂本のせがれではありませぬか?」
「どれ、どこに」

「静かにしないか」
あっ、とふたりの女はとびさがった。
「お尋ねの通り、ここに寝ているのは、坂本のせがれだ」
「まあ、やっぱり」
お田鶴さまは、意外にはずんだ声で、いった。
お田鶴さまは、砂の上にひざを折ってすわった。さすがに土佐二十四万石の家老の娘だけあってお行儀が良い。
竜馬は、寝たままである。
「竜馬どの、とおっしゃいましたね」
「そうです」
「江戸へ剣術修行にいらっしゃる。かような場所でお臥せりになっては私どもが追い出したようで気詰まりでなりませぬ」
「流れた」
「・・・何が」
「星がだよ」

memo

2004年版(テレビ東京40周年)「竜馬がゆく」では、七代目市川染五郎(当時/2018年1月より十代目松本幸四郎)がお田鶴さま(井川遥)と砂浜に並んで夜空を見上げるシーンがありました。二人とも若い!

人気コンテンツの竜馬がゆくは、何回も映像化されているので、見た映像キャラクターによってもまた、印象が違ってくると思います。