会津小鉄5

八坂の塔

女中が「お供が参っております」と告げた。土間には藤兵衛が控えている。
「妙に虫の知らせがしたので、お顔だけ拝めれば、それでいいんです」
「藤兵衛すぐ上がれ。お前のあとに人がつけている」

藤兵衛を表から逃すと、お田鶴とともに裏口から出たところ、
「坂本の旦那!」目明しの文吉である。

竜馬は動じない。大股で文吉に近づくと
「その方、文吉か」と言った。竜馬の声が度はずれで大きかったので文吉はぎょっとした。
「そうです」気をのまれて低音になった。
「わしは、土佐藩の坂本龍馬。これにおわすは、われらが主人筋のお方じゃ。無礼があっては承知せぬど。文吉、提灯を持たぬか!」

「旦那、お話を伺いたいことが」
「そう怯えずに、もそっと近くにこい。そうだ、ちょうど切りころの位置だ」
「げっ」

memo 会津小鉄5

会津藩と小鉄がいかに深く繋がっていたかを示す事件として、京都木屋町のお茶屋事件がある。
会津藩密事方頭取・林武八の配下・白石と小鉄が密談中、倒幕派の浪士に襲撃されたのだ。会津藩士白石は切られて死亡。小鉄は刀を素手で受け止め左手親指・人差し指を除く3本を失った。謀報方との密会内容は書面で史実には残っていないが密な関係は明らかである。

またある時、小鉄が浪人を斬り殺し牢に入った時があったが、会津藩から助命される。人を殺した一博徒が助命されることはまずない。よほど必要な男とされていたのであろう。