出立の準備

安政三年十月七日

竜馬の故郷滞在は意外にながびき、高知を発つ準備をし始めたのは晩秋になっていた。
城下を立つひと月前には、親戚縁者知人への挨拶回りに謀殺された。最後は福岡家だった。
福岡家のお田鶴様と竜馬の仲が怪しいと城下では評判になっていた。
当主福岡宮内が、藩政改革に反対したため、昨日から閉門を命ぜられていた。人の訪問を受け入れられない。
「では、ご家老のお身代わりにお田鶴様にごあいさつしたい」素早く一両を握らせると、「お田鶴様があいさつとうけるとおおせある」
伴った老女のはつが良い顔をしていない。

竜馬は「城下のはやり歌で
金の島田が堀端屋敷
腰の朱鞘が見えかくれ
ああ、乳繰っちょる 乳繰っちょる
というが、なあにおはつさん、わしらはちちくりあっちょらんですよ」
「噂は人を活殺するといいます」
「田鶴も平気でございますよ。ところで竜馬様。こんど帰国される時には、田鶴はここにおりません」
「どちらへ」
「京へ。でも、あなたとの噂に負けてお国を去るとお思いなされぬように」
(あっ)うかつだった。