鶏鍋

嘉永七年三月二十三日

「腹がへった、あれなる農家でめしを焚かせましょう。先ほど、モミ干し場でニワトリをみたが、あれを食おう。どうだ」
「つばがわいてきた」
鶏鍋ができた
「酒は?」「酒までは奢れない」小五郎はさすがに嫌な顔をした。

しかし妙なもので、同じ鍋を口に入れていると、親しさが一段と違ったものになっていった。

小五郎の話すところでは、品川砲台の築造を命じられた時、緋山代官江川太郎左衛門に同行し、海防の急務を理解させた。それ以降、江川は小五郎のために、洋式砲術の精妙さを説き、さらに西洋人の陸戦の法、歩兵、騎兵、砲兵の機能と使いかた、またインド、Chinaに対する英仏の植民地政策、露国の南下の野望、米国の産業の模様、国家の組織などを説いた。江川は
「このままでは、日本はつぶされる。桂くん、君ら若い人が奮起する時だ」といった。

「お前は偉い男じゃなぁ」竜馬の感心は、それだけではない。
自藩の殿様に送った手紙の小五郎の趣旨は今の長州藩の組織を洋式軍隊に改造する以外に洋夷の侵略から守ることができないというものであった。
「桂さん。あんたの藩には、同じようなお人はたくさんおられますか」
「いません。長州は眠っています。」
「わしの国には、武市半平太一人だけじゃぁ」

「土佐も眠ってますね」
「この竜馬だけは、今、目を覚まされた」
「坂本さん、やろう!」

「そうだ」と大声で頷いて見たが、正直なところ、龍馬はこのとき小五郎が何をやろうといっているのか、かいもく分からなかった。