わしぁ謀者よ

嘉永七年三月二十三日

一泊し翌朝、一行は長州本営をあとにした。

竜馬は途中で一行と別れ、山越えで横須賀に出ようとした。峠にさしかかった。三月にしてはめずらしく空が青い。
竜馬は、ふと足を止めた。武士がいる。
樹の根に、編笠をかぶって一人腰を下ろしていた。旅姿である。小柄で丈夫そうな体を持ち、衣服はいかにも清潔そうである。

「卒爾ながら、伺いたい。お見掛けする所、貴殿は長州藩士ではない」
「それがどうしたかな」
「お名前、ご目的をうかがいたい」「申されよ」
尋問の口調である。「言えんなぁ」

次の瞬間相手の影が動いた。と同時に竜馬の剛刀が鞘を走り、風を切ってはねあげたとき、異様な手応えを感じた。
桂の刀が、鍔元から折れて、天を飛んでいる。

「待った!」

刀を折られた桂よりも竜馬の方があわてている。桂の刀をたたき折ってしまっただけあって、竜馬の刀も鍔元から三寸ばかりの箇所でざっくりとかけ落ちている。
「欠けチョル」 大声をあけた。
「えらいことをした」

(馬鹿か?)

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「拙者は長州藩桂小五郎と申すものです」
「ああ、存じ上げている。私は土州坂本竜馬という者です。剣術試合にまかり超していた。」
「痛み入る。藩が招いた者を謀者と眼違いしておりました」
「なぁに、ご遠慮なさるな。わしぁ謀者よ」

(やはり馬鹿か?)