ウフ。泥棒さ

嘉永六年九月十日 品川

その日、国許へ帰る武市半平太を品川まで送るために未明に鍛治橋藩邸の門を出る。すると物陰から藤兵衛が小腰をかがめてすり寄ってきた。

藤兵衛の話では、冴の仇の信夫左馬之助の居場所がわかったという。
竜「どこにいる?」
藤「お耳を」
竜「大声で言え」
藤「でも、あちらの旦那は」
竜「ああ、いい折だ 引き合わせておこう。武市さん。あんたは唐土の聖賢の学問はあかるいが、こう言う男も知っておかれていいだろう」
半「どう言うご稼業の方だ」
竜「ウフ。泥棒さ」

「うそでございます。あたしはこのとおりあきんどでございます、若い頃から遠国をまわって薬売りをしてございます」
むろん武市は相手がただの薬売りで無いことぐらい見抜いている。

その日から、ひと月ばかりたち秋が深くなった頃、藤兵衛がひょっこり顔を出し「旦那大変だ。信夫のやつ、感づきやがったらしく、旦那を狙っているらしい」
竜馬は黙殺した。

memo 父坂本八平直足宛 手紙

嘉永6年9月23日付で土佐の父宛の手紙を書いたのが、現存する龍馬最古の手紙。

内容には、

一筆啓上仕候。秋気次第に相増候処、愈々御機嫌能可被成御座、目出度千万存奉候。次に私儀無異に相暮申候。御休心可被成下候。兄御許にアメリカ沙汰申上候に付、御覧可被成候。先は急用御座候に付、早書乱書御推覧可被成候。異国船御手宛の儀は先免ぜられ候が、来春は又人数に加はり可申奉存候。
恐惶謹言。

九月廿三日
尊父様御貴下
御状被下、難有次第に奉存候。金子御送り被仰付、何よりの品に御座候。異国船処々に来り候由に候へば、軍も近き内と奉存候。其節は異国の首を打取り、帰国可仕候。かしく。