八相の構え

嘉永六年五月二十一日

前将軍の祥月命日は道場は休む習慣になっており、家の者は外出中。構わず稽古に来た竜馬にさな子は、「お相手申し上げてよろしいでしょうか」と問い、竜馬は
「あぁ、防具をつけなさい」

竜馬は、竹刀を中段にとった。
さな子は、左コブシをみぞおちの前に浮かし、竹刀をわずかにうしろへ傾けて右肩に軽くひきつけ、左足を前にふみだした。
この構えを八相という。
竜馬は、内心、(やっぱり、出来るなぁ)と感心した。

「やあああ」

とっさに竜馬は後ろにさがった。  よほど撃ちが激しかったのか、さな子の竹刀が、ガラリと手から落ちた。
(しまった)と思ったのは、竜馬の方であった。安堵した途端、素手のさな子が飛び込んできて、腰に組みつかれてしまっていた。(女だてらに、なんという娘だ)

「あなたの負けだ」
「もう一度お願いします」
「いやだ」「なぜです」
「女は、面妖な感じだからこまる」

memo 剣道のかまえ

八相のかまえといっても、武道に関わりのない者には、ピンとこない。でも、この構えは、チャンバラや時代劇ではしょっちゅう見る型だ
イラストACさんには、可愛いイラストしか無かったです

八相の構え

すくっとたてた剣の鍔を右耳近くに持っていく構えで、試合より実戦の時に有効。
乱戦、野外や市街地など障害物の多い場所での戦闘において、武具を装備した状態で真剣を抜刀したまま全力で戦場を動き回る必要がある状況では役立つであろう構えである。

剣術には、五行の構え(ごぎょうのかまえ)または五方の構えがある。

中段の構え
剣先を相手の目に向けて構えるもので、正眼の構え、人の構え、水の構え とも言う

上段の構え
刀を頭上に振り上げる構えで、天の構え、火の構えとも言う

下段の構え
刀の剣先を水平より少し下げた構え方で、上段に対し防御の構えと言われる。地の構え、土の構えとも言う

八相の構え
刀を立てて右手側に寄せ、左足を前に出して構える、野球のバッティングフォームに似た構え方。八双の構えとも書き、陰の構え、木の構えとも言う

脇構え
右足を引き体を右斜めに向け刀を右脇に取り、剣先を後ろに下げた構え方。陽の構え、金の構えとも言う